社会地質学会誌
第17巻 第1/2号 2021年

論 説

陸上熱水鉱床と海底熱水鉱床における風化作用の比較検討:環境汚染への示唆
初川 悠・林 世峻・中島和夫・湯口貴史
 陸上熱水鉱床と海底熱水鉱床の鉱石の風化作用を比較した.陸上鉱床は山形県の村山鉱山と福舟鉱山,海底熱水鉱床は沖縄トラフ伊是名海穴Hakurei サイトの鉱石試料である.
 初生鉱物の類似点として,黄鉄鉱,方鉛鉱,閃亜鉛鉱等が共通して晶出していた.相違点は陸上鉱床には黄銅鉱が多く海底鉱床には方キューバ鉱が少量見られた.また,海底鉱床にはヨルダン鉱や濃紅銀鉱などのAs やSb を含む硫塩鉱物が多くみられた.二次鉱物の類似点は方鉛鉱の風化生成物として硫酸鉛鉱が形成されていた.相違点は,海底鉱床ではNa 含有の硫酸塩鉱物が多く沈殿しているのに対し,陸上鉱床ではK やAl を含む硫酸塩鉱物が沈殿していた.さらに,海底鉱床にはMn酸化物や白鉛鉱などの炭酸塩の二次鉱物が見られた.
 これらのうち特に二次鉱物の相違が生じる原因は,陸上と海底のpH や酸化還元の風化環境の違い,海水と地表水中のCO2濃度の違い,海水中での金属溶解度の低さ等が影響していると考えられる.すなわち,陸上鉱床では黄鉄鉱が多いと他の硫化物の分解が進み,汚染が広がる可能性が高い.海底鉱床では鉱石の分解や熱水噴出孔から出た金属は,海水の高いpH によって比較的短時間で周囲に沈殿し,大きな汚染にはつながりにくい.
land deposit, submarine hydrothermal deposit, weathering, secondary mineral, pollution

陸上熱水鉱床と海底熱水鉱床における風化作用の比較検討:環境汚染への示唆

調査・技術報告

顕微レーザラマン分光法による流体包有物分析の基礎的条件について
坂井政彰・中島和夫・村尾 智
 山形大学のDXR 顕微レーザラマンシステム(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて,各種パラメータを変更しつつ,種類と状態の異なるサンプルの測定を行った.変化させたパラメータはアパーチャー,露光時間,露光回数,バックグランド測定回数である.実験室の制約上,他のパラメータ(レーザー出力,対物レンズ,グレーティング)は変更をしなかった.アパーチャーのサイズは50 μm と25 μm,形はスリット状とピンホール状として,合計4 種類を用意した.それぞれを用いて,同一試料の分析を比較した結果,25 μm ピンホールが最も分析に適していることが分かった.
 次に,サンプルの状態を変えてピーク検出結果の差を調べた.研磨薄片と両面研磨片を準備し,後者については,その作成段階から次の3 種を選び出し,分析を行った.(i)1 次研磨終了試料;(ii)2 次研磨終了試料;(iii)アセトン処理後の完成品.その結果,両面研磨片の2 次研磨終了試料が分析に適していると結論した.
 さらに,成分が明確にわかっている合成包有物を用いて,ピーク位置の確認を行った.包有物由来のピークはホスト鉱物由来のピークと比較して非常に小さいものの,CO2のピークが約1282 cm-1と約1385 cm-1に,H2O のピークは3400〜3500 cm-1 に出現した.また,花崗岩中の石英に含まれる流体包有物を分析したところ,CO2 とH2O については,問題なく分析できることも確認した.
laser Raman spectrometry, fluid inclusion, parameter, aperture

顕微レーザラマン分光法による流体包有物分析の基礎的条件について

短 報

閃亜鉛鉱のカドミウム含有量について−鉱床タイプによる違いの検討−
角 主輝・村尾 智
 閃亜鉛鉱に含まれるカドミウムの含有量と鉱床タイプの関連性を22 本の学術論文から抜き出して調査した.その結果,標本の示す濃度も母平均の信頼区間が示す範囲も,浅熱水性鉱脈鉱床で著しく高いことが判明した.したがって,浅熱水性鉱脈鉱床の採掘を行う場合は,注意深いリスク管理が必要である.
cadmium, manganese, sphalerite, deposit type, epithermal deposits, risk

閃亜鉛鉱のカドミウム含有量について−鉱床タイプによる違いの検討−

寄 書

インクルーシブ社会は成長のエンジン
秋山愛子
 インクルーシブ社会という言葉をお聞きになったことがあるだろうでしょうか? 国連では2015 年採択のSDGs 以降、ほとんど毎日のように仕事で使う必須用語になっています。日本ではインクルーシブ教育という言葉は以前より障害領域になじみのある方々には知られていたかもしれません。一方、インクルーシブ社会という言葉は翻訳語と行政文書の中で「社会包摂」という日本語で広まっています。
 本稿には二つの目的があります。まずひとつは、インクルージョンという言葉のそもそもの定義を振り返り、その意図する社会の在り方の本質を明らかにすること。もうひとつは、インクルーシブな社会が社会の成長、特に経済成長に寄与する可能性が大だと伝えることです。本稿は文献調査と筆者の職業経験のもとづく知見をまとめたものであり、今後のさらなる調査・分析が必要とされるレベルであることを注記します。
inclusive society

インクルーシブ社会は成長のエンジン